メトリブダイアリー

お笑い、ラジオ、音楽(主に邦ロック系)などサブカルなことや日常のことを書き連ねる予定です。一人でも多くラジオを聴く人が増えるといいと思ってます。

朝井リョウ著「ままならないから私とあなた」を読んで

今年のGW、10連休というあまりにも長すぎる休暇に暇を持て余した僕はある一冊の小説を読んで時間を潰していました。

それは朝井リョウさんの「ままならないから私とあなた」という小説。

GWに入る数日前に最寄り駅の本屋で目に留まったのですが、その理由はもともと朝井さんの作品をいくつか読んでいたということと、解説が僕の好きな3人組バンドBase Ball BearのVo.Gt.小出祐介さんだったから。二人が元々仲が良いというのは知っていましたが、なぜ小出さんが解説をしているのか、どういった解説をするのかに興味があり、ジャケ買いならぬ“解説買い”で購入してしまいました。

 

本書は「レンタル世界」と表題作「ままならないから私とあなた」の二編でできています。

二つの作品がリンクすることはありませんが、他者との繋がりをテーマにしているという点では共通項のある作品です。

 

「レンタル世界」は20代後半から30代前半くらいの人であれば、今の自分と比べてしまう場面もあるかもしれません。現代を生きる人間の苦悩や喜びをリアルに描くのが朝井リョウさんの真骨頂です

そしてそのリアルを「レンタル」という概念を使ってあぶりだしていきます。

絶対だと思っていた人との繋がりとは本当に絶対なのか。

分かり合えたと思えた人とは本当に分かり合えているのか。

どこか人間不信になりかねない作品ですが、他者との結びつき、関係性を今一度見つめなおす機会になるかもしれません。

 

 

そして表題作の「ままならないから私とあなた」はピアノ、音楽が好きで将来は音楽家を目指す雪子と、高校時代から天才発明家として脚光を浴びていた薫を中心に二人が小学生から大人になるまでを描いた物語。薫は音楽家を目指す雪子のために、さまざまな発明に取り組みます。

人との繋がりや無駄と思えることにも価値があると考える雪子と、極力無駄を省き、効率を重視したいと考える薫という正反対の二人の友情と成長を描きます。

 

読み進めていくうちにこの本の解説を小出さんが務めた理由が分かってきました。

小出さんが所属するバンドBase Ball Bear(これからはベボベと書きます)はレコーディングでもライブでも打ち込みの音を一切入れず、二本のギターとベース、ドラム、声と自分達が発する音のみを信じて人気を獲得してきました(メンバーが一人脱退した時期、新たな可能性を模索して同期音を入れたこともあります)。

ギターやドラムの音、声までもPCで自由につくることができる現代の音楽業界では形態にとらわれない多種多様なアーティストが次々と現われています。

そこでバンドという曖昧かつわかりづらい形態で打ち込みもなく、全て人力で音楽を奏でる彼らはどう考えても不利です。米津玄師みたいに一人で成立させたり、サカナクションみたいにガンガン同期音入れたりするほうが分かりやすいし、聴きやすいし、音も正確ですからね。

しかし、ベボベはこういった一見すると無駄とも思えることにこだわっています。

なぜならそれが彼らの目指すカッコいいロックバンドだから

 

本書での雪子もそんな曖昧で答えが一つではないようなものに価値を見出しています。

小出さんの中には、どちらかというと雪子側の考えがあり、本書で描かれているのは音楽を通した雪子と薫の価値観の違い。その違いをミュージシャンの目線から解説できるということで小出さんに白羽の矢が立ったのではないでしょうか。であれば、ミュージシャンの視点から語ったこの作品の解説はとても興味深いので、本編を読んだ後もぜひ解説を読み、できればその後、知らない人はベボベの音楽に触れて「あ~この曲も自分達で音出してんだなーてか良い曲だな~」と思って彼らに興味を持っていただけると幸いです

 

夏といえばこの曲


Base Ball Bear - short hair

 

この本を読んだ多くの人が薫の考えを受け入れられず、人間的な考えを持つ雪子に感情移入していくと思います。

 

しかしそこは朝井リョウ

 

彼は綺麗事を書いて終わる人ではありません。朝井さんは性格も書く小説もひねくれているので、綺麗には終わらないんです

小出さんの解説では雪子の考えと薫の考えをハイブリットしたような音楽が理想と書かれていましたが、最後まで読むとその意見にまんまと納得させられます。雪子と薫のクライマックスまでの描き方が絶妙なので。

帯に書いてあった「価値観を揺さぶられる」ってこういうことか

 

雪子と薫どちらの考えも理解できるけど、二人が分かり合えることはないのでしょうか。二人の価値観はハリネズミのように近づき合ったら傷ついてしまう関係に似ていると思いました。

だからままならない。でもままならないからといって他者を排除するわけにはいかない。みんなそんなもんなのかな。他人の価値観や考え方と擦り合わせながら生きていかなければならないのが現代人だから。

 

読み終わっても答えは出ないし、もやもやが残る全くスッキリとしない小説ですが、時にはこういった作品もSNSとかで簡単にコミュニケーションが取れる今の世の中には必要なのかもしれません。

 

朝井さんらしい読みやすい文章と誰もが共感できるような題材です。小説に馴染みがないという人もぜひ!

 

 

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