メトリブダイアリー

お笑い、ラジオ、音楽(主に邦ロック系)などサブカルなことや日常のことを書き連ねる予定です。一人でも多くラジオを聴く人が増えるといいと思ってます。

早見和真「東京ドーン」は仕事、恋、嫉妬、プライド、人間関係、今、未来に悩み苦しむアラサー達への応援小説だ!

実況「高原!高原!!ちゅどーーん!」」

松木「あああああああああああああああああ!!」

実況「東京ドーン!!」

 

これは、2006年FIFA W杯の直前に日本代表が地元ドイツ代表と対戦した時、当時のエース高原選手がドイツ相手にゴールを決めた時の実況と解説です。今や酔いどれ応援解説でお馴染みの松木さんがもはや解説という職業を忘れて絶叫するこのシーンは、彼の名言名場面がまとめられている映像集として某動画サイトに掲載されています。文字だけで見るとサッカーの試合を実況している場面とは思えませんが、実際の映像を見てみるとこのように言っています。確実に。僕は元気がない時にこの映像を見返しては明日への英気を養っています。

 


松木安太郎&セルジオ越後の解説が面白い

 

ある日、いつものように元気を注入しようとこの動画をキメていたところ、「東京ドーン」という単語が妙に引っかかり、なんとなくググってみることに。すると、同名の小説がヒットしました。内容を読むと、東京に住む27歳の男女が仕事や恋に悩みながらもがいていく青春こじらせ短編集ということが分かりました。僕は、この手の爽やかさと心のざらつきが同居しているような小説が大好きだったのでほぼノータイムで購入し、予想以上のスピードで読み進めていました。

 

本小説は6篇の短編集から成り、6人の27歳の主人公が存在します。その一人一人に現実ではベタすぎるけど、小説にしてはリアルすぎるような27歳なりの出来事が起こるのです。仕事の多忙さから鬱の診断を受け、転職を考えている主人公。転職しようかどうしようかと考えている間に、同期が辞め、同棲中の恋人に妊娠が発覚してしまった話や、なかなか結婚を言い出さない彼氏に不安を感じ、自分と彼氏の現在地を測るかのようにコンパに行って優越感に浸る話、同級生の中でスターだった野球部のエースと控えピッチャーが10年後、立場が逆転していた話などあるあるとまでは言わないまでも、なくはなさそうな絶妙な27歳の物語の連続で、現実のリアルさとフィクションの面白さがちょうどいいバランスで展開されていきます。本書発売当時は2012年だったので通信手段がメールなのが少し残念ですが。。20代後半から30代前半くらいの人は各主人公たちをなんとなく今の自分に当てはめて読むことができるかもしれないのでおススメです。恐らくこの世代でないと、どこか客観的で他人事のような視点が入ってしまい、物語に入り込むことが難しいのではないでしょうか。

 

過去に似たような手法で「桐島、部活辞めるってよ」という作品がありました。ある高校を舞台に、あらかじめ区切られたスクールカーストの上で、複数の主人公が理想と現実の間でもがき苦しむ物語です。自分がどの主人公に感情移入できるのかという視点で読んでいた人も少なくないと思います。この話を読んだ当時、僕は大学生で、面白いとは思ったのですが、同時に高校生の時に読んでみたかったという感想も抱きました。きっとその方が物語をリアルに楽しめると思ったからです(出版された時は高校生だったけど読んだのは大学生だった・・)。すなわち、「東京ドーン」は「桐島」の20代後半バージョンみたいな本なのです。

 

さらに「桐島」に似た手法として、各物語が薄くリンクしていくことも挙げられます。今読んでいる章の主人公の友達が前の章の主人公だったり、前の章で出てきた人物が別の角度で登場してきたりと。「桐島」は一つの高校が舞台だったのである程度リンクするのも理解できますが、「東京ドーン」はそれこそ東京が舞台ですから、現実では考えられない偶然が重なりまくります。そこで興ざめしてしまう人もいるかもしれませんが、単純にフィクションとして楽しいし、この人はあの時出てきたあいつかという気付きが読んでいて飽きさせません。むしろ前の章で感情移入させられた人物が再登場したりして、興奮します。

 

物語のあらすじを事細かに描くのはネタバレになるしなによりストーリーよりも空気感や登場人物たちの心情の動きをメインにしてる話だしなによりめんどくさいのでやりません。そんな中で、ストーリーのことにあと一つだけ言及できるなら各章物語のオチが必ずしもハッピーエンドではないということが挙げられます。あーこの二人、喧嘩したり、いがみ合ったりしてるけどなんやかんやで仲直りすんでしょ?という浅くて愚かな予想を簡単に裏切ってきます。悲しいほどにリアルな人間関係を描いています。最後はちゃんとハッピーエンドじゃないとイヤ!っていう人にはおススメできませんが、人生上手くいかねえな自分みたいなダメ人間ほかにいないかなと落ち込んでいる人にはピッタリです。

 

そう、結局ダメ人間の話なのかもしれません。社会に出て数年経過し、余裕も出てきたとはいえ、27歳なんてまだまだ未熟者で、甘々なところもたくさんあるわけで、だからこそ上手くいかない自分に落ち込み、思い通りにならない周りにいら立つのかもなと。仕事も恋人もいるのにどこか腑に落ちない毎日。こんなはずじゃなかったどこで間違ったんだろうって嘆く人もいるでしょう。劣等感や焦燥感を抱えて「オレって結局何がしたいんだ」とか思っている人を励ますことはないけれど、寄り添ってそこから抜け出すヒントを得られるかもしれない一冊なんだろうと思います。ダサくてカッコ悪い自分を認められるようになるのが30代だとしたら、この頃はそんな自分を許せない時期なんでしょうか。なにが正解なのかわかんねぇっすよ!早く楽になりたい反面、もう少しあがいていたい気持ちもあります。

 

そんな素晴らしい本ですが、はっきりいって全く売れていません。賞も取ってなければ作品のwikipediaもないです。本来なら映像化して、菅田将暉竹内涼真山崎賢人松岡茉優吉岡里帆あたりが出演して王様のブランチで仲良く10万円で買い物してもいいとさえ思います。ネットのレビューも悪くないのになぜなのか。やっぱり評価している人間が年寄りばかりでイマイチこの世代の話にピンと来てないからなのか。素人には分かりませんが、残念極まりです。

 

この先、家族ができて自分以外のものを優先せざるを得ない年代になるということを考えると、こういう自由に色々考えこんでしまう不安定な青春こじらせ群像劇に本当の意味で共感できるのも少なくなってくるのかなと少し寂しい気持ちになります。だからこそ同年代の人には今、ぜひ読んでほしい作品でもあるわけです。

例外として、人生何もかも思い通りに上手くいって何も悩みがないぜ!っていう人生10回目くらいの人は読まなくていいです。

 

東京ドーン (講談社文庫)

東京ドーン (講談社文庫)

  • 作者:早見 和真
  • 発売日: 2016/01/15
  • メディア: 文庫